小堀鐸二研究所

地震動評価

日本周辺のプレート国や自治体による地震被害予測は、地震動評価結果に基づくものが多く、設計や防災対策において、『地震動評価』が重要な役割を担っています。地震大国と呼ばれる日本で安全安心な社会を維持していくには、それらの地震に対して地震動評価の精度を向上させ、地震に強い社会を構築することが重要です。

日本列島は現在、地震の活動期に入っていると指摘されています。南海トラフの巨大地震はいつ起きてもおかしくないと言われていますし、千島海溝や日本海溝でも何度も地震を繰り返しています。首都圏に目を向ければ、北アメリカプレート、太平洋プレート、フィリピン海プレートが重なり合い、非常に複雑な地震発生環境の上に位置し、首都直下型地震の発生も危惧されています。

当社では、発生した地震を調査研究し、そこで露見した課題を解決するための技術開発に取り組んでいます。これらの技術は、地震動評価に反映され、予測精度の向上に貢献しています。

FEMによる
地盤震動解析
地層境界が水平でなく変化している不整形地盤での地盤震動特性を有限要素法(FEM)で解析することで、1995年兵庫県南部地震や2007年新潟県中越沖地震で顕著に現れた「揺れの増幅メカニズム」を解明することができます。
HPCを用いた
大規模波動伝播解析
ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)システムを用いた大規模波動伝播解析技術により、2011年東北地方太平洋沖地震で全国に伝播した長周期地震動などを再現することができます。
地下構造探査技術の活用 地震動や微動などを利用し調査地点の場所の地盤が硬いか軟らかいかを探査することによって、地盤環境に強く依存する地震の揺れを適切に把握することができます。

動力学的断層モデルによる強震動シミュレーション

動力学的断層モデル動力学的断層モデルは、断層面内の各部のすべりが相互に影響し合う効果を物理的に解くことができる特長を有しています。精度の高い結果を得るためには断層の摩擦構成則におけるパラメータ設定が鍵となります。

2014年11月22日に発生した逆断層型である長野県北部の地震(MJ 6.7)を対象とし、摩擦構成則のパラメータの空間分布を運動学的なインバージョン(逆解析)結果から適切に求めることにより、動力学的断層モデルで断層面上の最終すべり分布と震源近傍の強震動の両方を再現できることを実証しています。

※「小堀研レポート(2019年度)」より抜粋



超高層・免震建築物の耐震性検討に資するサイトスペシフィックな入力地震動評価

渋谷桜ケ丘駅建設工事
渋谷駅桜丘口地区第一種市街地再開発事業に伴う建設工事
建築主:渋谷駅桜丘口地区市街地再開発組合

超高層建築物や免震建築物などの固有周期の長い構造物では、耐震性の検討にあたり長周期地震動への対応が重要です。2016年に国土交通省から、南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策の必要性が示されました。これに加えて、関東地域では1923年大正関東地震などの相模トラフ沿いの巨大地震への配慮も求められており、独自に地震動を評価する必要があります。また、立地や建築物の状況により、関東地震だけでなく、建設地周辺で過去に発生した地震や今後の発生が想定されている地震を考慮したサイトスペシフィックな地震動評価が重要となります。

当社では、新しい知見を適宜反映しながら、地震動評価技術の開発・整備を進めるとともに、公的機関等の動向にも注目して、適切な設計支援を実施しています。

※「小堀研レポート(2019年度)」より抜粋・加筆



地震動シミュレーション結果の可視化

地震動シミュレーション結果を効果的に伝えるため、地震波が伝播する様子を表現し、地震波が集まったり、大きくなったりする様子を感覚的につかむことができる動画を作成しています。これらの動画はYoutubeにも公開しており、学習教材としても使用されています。

左下図は2011年東北地方太平洋沖地震のシミュレーションを表し、東北地方から東京や大阪に地震波が伝わっていく様子を示しています。
右下図は大正関東地震のシミュレーションを可視化したものです。約100年前にどのような地震が発生して被害を及ぼしたのか、その地震動の再現を試みています。


大正関東地震の大規模波動伝播解析

2011年東北地方太平洋沖地震(5倍速)


地震動評価の高精度化

関東地方関東地方で発生する地震は震度分布が同心円状に広がらない場合があります。その原因の一つとして、伝播経路特性の不均質性が考えられます。関東直下では大陸側のプレートの下に太平洋プレートとフィリピン海プレートが沈み込んでおり、地震の発生場所によって各プレートの内部を地震波が伝播する距離が変わります。三次元の伝播経路特性の不均質性は地震観測記録から推定できます。

推定した伝播経路特性を用いて、基盤レベルの地震動振幅の空間分布を評価することから、伝播経路特性に起因する不均質性や、震度分布に見られるような地震動が方位性をもって広がる特徴の再現が可能です。さらに評価した伝播経路特性とサイト増幅特性を用いたことから、関東地方の地震動評価の高精度化にも取り組んでいます。