観測事象の分析
当社では、公開されている観測記録等のデータを利用して、独自の知見に基づき分析を行っています。
首都圏地震観測網MeSO-net強震記録を用いた相互作用効果の分析
地震時には地盤の震動が建物に伝わるだけでなく、建物の震動が地盤にも影響を与える相互作用効果が生じます。建物の耐震性を正確に把握するためには、建物と地盤の震動を同時に観測し、その挙動を検討することが重要です。
文部科学省「首都圏を中心としたレジリエンス総合力向上プロジェクト」において、地盤系の地震観測(MeSO-net)とその近傍にある建物の地震観測が行われました。当社では、観測された記録を分析することで、直接基礎と杭基礎の相互作用効果の違いを整理するとともに、3次元有限要素法(3DFEM)などを用いてシミュレーション解析を行いました。
日本海溝海底地震津波観測網S-net強震記録を用いた地震動特性の分析
使用観測記録の震央と観測点
将来の地震に対する予測手法の一つに、マグニチュード、震源からの距離等を想定すると、揺れの強さが評価できる地震動予測式があります。観測記録を用いて式が作られますが、陸上の観測記録のみでは、海域で地震が発生する場合、震源直上の特性を把握することができませんでした。
当社では、(国研)防災科学技術研究所によるS-netの観測記録を分析し、海域と陸域の両記録から震源直上も評価できる予測式の構築を進めています。宮城県沖と福島県沖で発生した地震記録を使って地震動予測式を試作し、マグニチュード7クラスの地震について遠方から震源直上までの観測記録を精度よく再現できることを確認しました。
2011/3/11の東日本大震災における東京湾沿岸部の地震動
2011年東北地方太平洋沖地震ではどのように揺れたかを、水平方向の速度観測記録をもとに10倍の速度で可視化しました。
明治以降、埋立造成・開発が進められてきた東京湾沿岸部に着目し、様々な場所での観測記録を用いて、地点間の揺れ易さや揺れの振動方位を評価しました。明治初期から中期にかけて作成された迅速測図に基づく明治期の海岸線よりも海側は、陸側と比べて周期2~6秒で大きく揺れていたことが分かりました。
- [参考文献] 笠松健太郎、加藤研一、田所萌似香(小堀鐸二研究所)、酒井慎一(東京大学地震研究所):地震観測記録に基づく東京湾沿岸部の揺れ易さの評価、日本地震工学会第12回年次大会梗概集、P4-33.
[要旨] 明治時代以降、浚渫土砂等による埋立造成・開発が進められてきた東京湾沿岸部に着目し、様々な方位で発生した地震の観測記録を用いて、地点間の相対的な振幅差を表す揺れ易さを評価した。明治時代初期から中期にかけて作成された迅速測図に基づき、その海岸線よりも海側を東京湾岸サイト、陸側をそれ以外のサイトと区別すると、2011年東北地方太平洋沖地震Mw9.0の水平動では、前者のサイトは全体的に周期約4秒以下が揺れ易いことが分かった。内陸地殻内地震では揺れ易さの違いは不明瞭であったが、発生方位が異なる場合、卓越周期や各地の揺れ易さが変動する様子が認められた。2011年富士山付近の地震Mj6.4を対象に、全地震について周期4秒程度以下が揺れ易いと評価されたE.JKPMの観測記録を分析した。揺れ易さの評価結果には周期1~2秒の卓越が関係しており、この卓越には表面波の寄与が大きいことが分かった。