動的耐震診断
一般的な建物の耐震診断(静的耐震診断)では、診断基準に定められた耐震性を有するかどうかを判定するだけで、当該敷地に想定される地震動の大きさや地盤条件は考慮されません。
一方「動的耐震診断」は、建物が立地する敷地の地盤条件やその敷地で想定される地震を適切に考慮して、実際の地震に近い想定下における建物の損傷評価・揺れの状況をシミュレートして診断するものです。当社では、それを可能とする解析技術の高度化を図っています。
敷地近傍の活断層や地震環境を考慮した耐震診断
敷地の地震ハザード評価
- 地震ハザード評価では、敷地に対して影響のあるすべての地震を考慮して、それぞれの影響度や危険度を評価します。
特に影響の大きい地震については、敷地で想定される地震動を最新の手法を用いて評価し、建物への入力地震動を定めます。
地盤調査
- 地震時の揺れは地盤によって大きく異なります。表層付近の地盤を調査することによって、地震時の揺れの特性や杭と建物との相互作用を精度よく推定できます。
地盤に孔をあけて調査する方法がよく知られていますが、地表面の微動や地震動から地盤情報を得る方法等、各種地盤調査方法の開発と改良に取り組んでいます。
詳細な解析モデルを用いた耐震性評価
- 動的耐震診断にあたっては、その目的に応じて各種評価手法から適切な手法を一つ選択し、建物をモデル化して地震時の建物挙動を評価します。
最も詳細な評価には、建物の各構造部材(柱、梁、壁など)をそれぞれモデル化して構築した立体骨組解析モデルを用い、地震時の建物および構造部材の挙動を時々刻々評価する地震応答解析手法が用いられます。その結果を基に、各構造部材の健全性を確認することで、建物全体の耐震安全性を評価します。近年では、目に見える上部構造ばかりでなく、基礎(基礎梁や杭)も詳細にモデル化した、建物-杭-地盤一体型モデルによる地震応答解析を行う例も増えています。
当社では、建物ばかりでなく、地盤や基礎などの複雑な条件を含めた総合的な耐震性評価を実施しています。
超高層建築物の長周期地震動対応
長周期地震動
- 長周期地震動は、周期の長いゆっくりしとした大きな揺れが10分程度も続く地震動です。ここで周期とは揺れが1往復するのにかかる時間で、長周期地震動の場合、それは約2秒から20秒となります。
一方、建物にはそれぞれ揺れやすい周期(固有周期)があり、地震動の周期と建物の固有周期が一致すると共振して建物が大きく揺れます。2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震では東京の超高層ビルが大きく揺れて、長周期地震動による共振が現実のものとなりました。
当社では長周期地震動の生成要因の分析や再現解析にいち早く取り組んでおり、その成果を新設および既設の超高層・免震構造物の耐震設計に反映しています。
懸念される地震
- 今、長周期地震動が最も高い確率で想定される地震は、南海トラフで発生するM8~M9クラスの巨大地震です。政府の地震調査研究推進本部は、今後30年以内に70%~80%の確率で発生すると発表し、また発生した場合、関東から東海、近畿、四国、九州の太平洋側地域への影響が大きく、特に、東京、名古屋、大阪の3大都市圏の超高層ビルが大きく影響を受けると予想しています。
既存超高層建築物の制震補強
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新宿パークタワーは、「設計時には考慮していなかった長周期地震動に対する建物全体への減衰付加による耐震安全性の向上」「2004年新潟県中越地震などの数年に一度程度遭遇する可能性のある地震に対する揺れ幅の低減及び継続時間の短縮」を目的に2008年に制震改修が計画されました。
同年末の日本建築センターの性能評価を経て、2009年1月に国土交通大臣の認定を再取得し、直ちに改修工事が実施されました。計画にあたっては、制震装置の集約配置により影響範囲を限定することを念頭に置き、ねじれを伴う振動を効率的に低減するために、24階の長辺、短辺方向の合計12個所に計48台の高性能オイルダンパHiDAXを配置しました。
2011年の東北地方太平洋沖地震時の観測記録を基にした地震後のシミュレーション解析によれば、建物頂部の最大変位は制震装置がない場合の3/4まで低減され、大きく揺れる時間の長さも短縮されるなど、制震装置の有効性が確認されました。
国土交通省の技術的助言と当社の対応
- 長周期地震動の発生による超高層ビル等の被害に備えて、国土交通省は2016年6月に「超高層建築物等における南海トラフ沿いの巨大地震による長周期地震動への対策について」という技術的な助言を公表しました。そのなかでは、関東地域、静岡地域、中京地域、大阪地域で想定される地震動を公表し、既存超高層ビルの安全性を検討して必要に応じて補強等の措置を講じることを推奨しています。
これに対し、当社では建築研究所と長周期地震動に対する安全性検証方法に関する共同研究を国土交通省基準整備促進事業の一部として実施し、現在の性能評価で用いられている、繰り返しに伴う鉄骨梁部材の損傷に関する安全性検証方法を構築しました。さらに柱部材についても安全性検証方法に関する検討を進めています。