小堀鐸二研究所

杭/基礎/地盤解析

杭/基礎/地盤解析では、地盤に発生する様々な現象による地盤挙動を、杭と基礎と地盤をモデル化しコンピュータを使って解析します。
地震時には、建物と基礎と杭と地盤の間で力のやりとりが発生するので、必要に応じて建物を含めて基礎と杭と地盤を全てモデル化して、それらを一括して地震応答解析を実施する必要があります。
特に地盤が不整形で支持層が傾斜している場合や、液状化のように地盤が強非線形化する場合には、その影響を考慮して杭や基礎の地震時挙動を評価することが大切です。
また、実験や観測、被害調査を通じて、解析手法や解析モデルの検証が必要となります。当社は長年にわたって、高度な解析手法の開発とその検証に取り組んでいます。

地盤3次元FEMの構成則の高度化

シミュレーション解析に用いた3次元FEMモデル
シミュレーション解析に用いた3次元FEMモデル

2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震では杭基礎の被害が数多く見られており、地盤変状に起因する地震被害への対策の関心が高まっています。合理的な地震対策を行うためには、大地震時に地下構造物に加わる動土圧を精緻に評価する必要があります。

当社では、地盤と構造物の動的応答が評価できる3次元FEMの構成則の高度化を行い、大地震時における軟弱地盤中の構造物の新しい耐震評価技術の開発を進めています。

3次元FEMによる不整形地盤の杭応答評価

不整形地盤のモデル例
不整形地盤のモデル例

当社保有の3次元FEMプログラムでは、敷地地盤の不整形性をFEMモデルに忠実に取り込み、地盤が弾性域を超えて動く巨大地震に対して、逐次非線形の時刻歴応答解析が可能です。支持地盤が傾斜する場合や、杭径・杭長が多様な多本杭の建物などに対して、ねじれの影響や応力集中を適切に評価することができます。


文部科学省「都市機能の維持・回復のための調査研究」での振動台実験の実施

支持地盤(緑色の層)が傾斜する地点のモデル例
試験体の震動台への設置状況(連成系加振時)

当社は、文部科学省が2012年から5年間にわたって実施した「都市機能の維持・回復のための調査研究」のなかで、「建物のモニタリング(連成システム)」の研究を担当しました。
2016年度には防災科学技術研究所のE-ディフェンス震動台を用いて、杭-地盤系の破壊(ステップ1)と上部構造の破壊(ステップ2)からなる2段階の振動台実験を行いました。

ステップ1の杭-地盤系の加振では、上部構造の損傷はほとんど進展しませんでしたが、杭頭が圧壊して耐力低下後に軸力保持できなくなり、基礎が沈下するとともに残留変形が生じました。この結果は、建物-杭-地盤連成系において、杭基礎が損傷することにより、上部構造の損傷が抑制される場合があることを示しています。
ステップ2の上部構造加振での建物応答は、連成系加振での応答よりも大きくなりました。これより基礎固定の場合と比較して、建物-杭-地盤連成系の方が、相互作用の影響により建物応答が低減することが確認できました。さらに、得られたデータの分析とシミュレーション解析などを進めて、杭基礎建物の耐震性能評価技術の高度化に向けた研究開発に取り組んでいます。


熊本地震で被害を受けた風車構造物の再稼働へ向けた耐震安全性再検証業務

各種非線形性を考慮した地震応答解析モデルと浮上り変位の概念

2016年熊本地震により、震源地近くに位置する阿蘇にしはらウインドファーム(ジェイウインド)では、風車基礎が被災し、運転を一時停止しました。その後、復旧と運転再開に向け、被害状況調査、被災度区分判定、復旧方法を検討するとともに、今後の大規模地震に対しても風車が倒壊しないことを確認することになりました。当社はそのなかで解析的検討を担当しました。

構造被害発生のメカニズムを明らかにするため、RC基礎を詳細にモデル化したFEM解析を行い、外力が大きくなると基礎の浮上りが生じて損傷(変形)が入隅部とそこから連なる危険断面に集中し、実被害を再現できることを確認しました。次に、基礎の浮上り非線形と地盤の非線形を考慮できる地盤浮上り非線形ばねと、危険断面の損傷集中をモデル化した弾塑性回転ばねを設定した地震応答解析を実施しました。その結果、熊本地震を経験して損傷を受けた状態で、現行基準で定められる極めて稀に発生する地震動を受けた場合でも、風車は倒壊崩壊しないことを確認しました。
これらの解析的検討業務の内容は、有識者で組織された電源開発社内事故調査委員会で審議され、運転再開に向けた道筋を示す一助となりました。